▽前回のブログで、妊娠高血圧症(HDP)の研究に長年取り組んできた私には、食物繊維が妊娠高血圧症を予防するというのは初耳です。しかしカルシウムの摂取が、HDP発症を予防することは古くから研究され、広く知られている事実です、と述べました。

▽カルシウムの摂取が、HDP発症を予防するのではないか、とする考え方は、実はグアテマラに住むマヤ先住民にはHDPの発症頻度が少なく、彼らは伝統的に料理前にトウモロコシをライムにしみ込ませる調理法を行っており、この調理法では、食事にカルシウムが多くなることが知られていました。これらの事実が、その後のカルシウム摂取によるHDP予防という疫学研究の発端のようです。

▽そこで、この点について少し調べてみました。WHO(世界保健機構)

の今年6月のニュース(URL:https://www.who.int/elena/titles/review_summaries/calcium-supplementation/en/)に次のような記事がありました。

それは、カルシウムの摂取がHDPとその関連疾患を防ぐという内容です。1日1g以上のカルシウムの摂取は、HDPのリスクを下げるのみならず、早産のリスクも下げ、それらによる母体死亡や重篤な合併症のリスクも下げるとしています。

また1日1g以下でも、HDPのリスクを下げ、低体重児の出生を防ぎ、新生児のICU治療を減らすとしています。

▽このニュースは、コクラン(Cochrane)という人の健康管理、増進を目的とした世界的な組織(非営利団体)が、この点に関する膨大かつ正確な情報を調査した報告によると述べていました。

その報告は、Hofmeyr GJ et al. Cochrane Database of Systemic Reviews 2014, issue 6. Art. No.:CD001059. DOI:10.1002/14651858. CD001059.pub4. (URL:www.cochranelibrary.com) などの論文を根拠にしています。

既にWHOは2012年、コクランの調査などを根拠にHDPとその合併症の予防に1日1.5g以上のカルシウムの摂取を推奨しています。

 

▽上記の論文(Hofmeyr GJ et al. 2014)には、次のような考察が記載されています。彼らの調査から、妊娠後半期のカルシウムの摂取は、血圧を降下させている。しかしながら、なぜカルシウムの摂取が血圧を降下させるかは未だ不明である。

▽我々の提唱するHDP治療薬アンジオテンシン分解酵素(aminopeptidase A、APA)は、カルシウムの摂取が血圧を降下させる機序にヒントを与えているかもしれないのです。

▽さて、講座No.141で事前報告しましたが、8月2日に岐阜市の岐阜大学サテライトキャンパスで第24回日本病態プロテアーゼ学会学術集会が開かれ、我々が長きに亘り研究してきたAPAの研究成果を発表いたしました。今回は薬剤開発を目指す、第一歩の段階の発表でした。

1970年後半、私がAPAの研究を始めたころ、この酵素の存在は疑問視されていました。

▽我々は1981年、APAがアンジオテンシンⅡ分解活性を持つ唯一の酵素であり、胎盤に豊富に存在することを報告しました。(文献)

その後、この酵素は腎臓にも豊富に存在することも報告しています。

この酵素の活性を試験管中で測定するには、カルシウムの存在が必須です。つまり、試験管中にカルシウムがあれば、酵素の働きが増強されるということです。

▽私は患者さんの血液を採取し、APA活性を測定する際は常にカルシウムを入れて測定していました。そのころから、カルシウムの摂取が、APAの働きを高め、HDP発症を予防するのではないだろうかと考えていました。

なぜなら、試験管でも、血液中でも、カルシウムがAPAの働きを活性化すると考えられるためです。

▽私は、HDPの病因は1.HDPでは、酸素欠乏状態(血流不全状態)におかれた胎児は、胎児自らが生体物質中最強力な昇圧ホルモンであるアンジオテンシンⅡの分泌を増加させる。2.一方、アンジオテンシンⅡを破壊する役目の胎盤や妊婦血中に存在するAPAの産生量はそれに追いつかない。3.このアンバランスが母体の血圧を上昇させる。-と考えています。

 

文献:Mizutani S et al. B.B.A.678:168-170;1981