▽妊娠37週目に双子の計画出産(帝王切開手術)をネットテレビ局の『Abema(アベマ)TV』で生中継する予定のタレント蒼井そらさんが4月21日、自身のオフィシャルブログを更新。病院で推奨されている「出生前診断」を受診しないことを報告し、決断までの心境を吐露しています。

▽しかし、ネット上では「いろんな考えの人がいるから黙ってなよ」「脳内お花畑か?」などと反感を買ってしまったようです。

▽蒼井さんは妊娠前に、元セクシー女優が子どもを作ることはもちろんのこと、《(子どもに)障害があったら? 産まれてからの将来は?》など、妊娠や育児に対してよくよく自問自答していたようだ。そうして考えが固まり《自分の中で全部GOが出た》ため、 満を持して妊活に踏み切ったという。

▽現在35歳の蒼井さん。病院の初めての検診で、「出生前診断」の案内書を渡され、《高齢出産になるので安心や準備のためにやっておいた方が良いのかな?》と一度考えたそうです。しかし、《結局、出生前診断はしませんでした》と明かしています。

▽診断しなかった理由は、妊娠12週ごろの妊婦なら必ず受診し、心臓の動きや手足の確認などをする『スクリーニング検査』で、医師から特に《指摘されなかった》からだそうです。さらに精神面でも「出生前診断」を受診する必要性を感じなかったと書いています。

▽蒼井さんいわく、《障害があるからと堕胎するなんて絶対できない》《流産の可能性があるという検査をやる必要性を感じません》という確固たる思いがあり、夫とも話し合った末に《どんな結果であれ、産むならやる必要ない》という結論に落ち着いたそうです。

▽私はこの考え方を支持します。新型出生前診断(NIPT)が2013年に導入されて以来、5年半の間に6万人を超える妊婦が、診断を受けました。 “陽性(異常あり)”が確定したのは約890人。そのうち9割が中絶に踏み切っているそうです。

▽新型出生前診断は「命の選別」ともいわれ、議論が続く重い検査です。そのため日本産科婦人科学会(日産婦)は、妊婦が適切なサポートを受けられるように、高齢出産など、検査に厳しい条件を付けています。しかも国内92か所の施設でしか受けることができません。

▽厚労省は、妊婦の血液から胎児の染色体異常を推定する新型出生前診断のあり方を議論する初めての検討会を、今夏にも設置する方針を固めたようです。日産婦が3月に発表した実施施設を拡大する新指針案に対し、複数の医学系学会が反発して混乱。その一方で指針を無視する営利目的の施設が急増しており、国として対策が必要と判断したのです。出生前診断について国が検討に乗り出すのは20年ぶりになります。

NIPTは米国で始まりました。私は名古屋大学退官と同時に地元の医療関係企業の社長のご厚意で寄付講座を5年間開設していただき、開業医と寄付講座運営の” 二束の草鞋”を履いていました。

▽その社長は、米国の医療関係企業と多数の接点を持っておられました。直截的に表現すると、日本に輸入すれば儲かる多くのプロジェクトを知っていらっしゃいました。

▽寄付講座を開いていただいたころ、社長は日本へのNIPTの輸入を真剣に考え、私に産婦人科医としての意見を求められました。私はNIPTが日本で行われるようになれば、「命の選別」が容易に行われることになり、断固反対ですと申し上げ、社長が断念された記憶が今になって鮮明に思い出されます。

▽実は名古屋大学の教授時代、私は日産婦の理事を務めていました。そのころ、理事会に、ターナー症候群(染色体異常で、生まれつき卵巣のない女性)の団体から「他人の卵子を使いターナー症候群の女性でも子供を持てるようにしてほしい」という要望が出されて議題になりました。

▽司会役の理事長に対し、私は次のような発言をしました。

『このような要望を学会で認めれば、例えは飛躍しますが,ヒトラーや日本を降伏させるために米国が原爆を開発したのと同じことになります。認めるべきではありません』

▽NIPTも同様です。人の欲望には際限がありません。どこかでその欲望に歯止めをかけないと、人間社会が必ずやめちゃくちゃになるでしょう。だから私は自然体の出産を選択した蒼井さんの英断に拍手を送りたいのです。