▽英国の医学雑誌『ランセット』が8月、「重症妊娠高血圧症の妊婦には経口降圧剤が有効。今後、妊娠高血圧症には経口降圧剤、とくにニフェジピンを使用すべき」とする論文を掲載しました。

 

▽重症妊娠高血圧症になった妊婦さんの血圧は、上(収縮期)が160mmHg以上または下(拡張期)が110mmHg以上以上になり、下手すると母子ともに亡くなってしまいます。

 

▽そういう重症妊娠高血圧症の妊婦さんには何度も出会いました。確かに経口降圧剤を投与すると、血圧の増悪はなかったのですが、ほとんどの妊婦さんの赤ちゃんは胎内死亡となり、悔しく、悲惨な思いをしました。

 

▽なぜ、そうなるのでしょうか。妊娠高血圧症の妊婦さんを治療するたびに自問自答しました。そして妊婦さんのお腹の中で生きている胎児の呼吸と排泄を考えました。

 

▽胎児の臍帯の動脈末端は、胎盤の先端で毛細血管になっていて、その血圧は10mmHgほどです。

 

▽この部分の毛細血管を使って、胎児は母体の子宮動脈から供給される血液が運ぶ酸素を受け取ります。その一方で、老廃物を排出して生命の維持に必要な物質を交換しています。

 

▽つまり、胎児は極めて低い血圧の毛細血管に頼って呼吸と排泄を続けているです。

 

▽そこに母体の血圧を下げるため経口降圧剤を投与したら、どうなるのでしょうか。母体の血圧は下がります。ところが、同時に胎児の血圧も下げてしまい、呼吸や排泄が極めて困難になるのです。WHO(世界保健機構)も2011年の勧告で、降圧剤は重症妊娠高血圧の治療効果はないと指摘しています。

 

▽では、治療方法はないのでしょうか。あります。<a href="https://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=50544220">講座94</a>で紹介しています。静岡学術出版社から発売した『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法胎児は今の薬で安全か?』の第3章にも胎児に影響する降圧薬について詳しく書いています。ぜひ、お読みください。

 

文献:Lancet 2019;394:1011-21 Published Online August ,2019(URL:http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(19)31282-6