前回のブログで、胎児は胎盤の先端の、極めて低い血圧の毛細血管に頼って呼吸と排泄を続けている事を述べました。降圧剤を妊婦に投与すると、母体の血圧は下がります。ところが、同時に胎児の血圧も下げてしまい、胎盤の極めて低い血圧の毛細血管で母体から酸素をもらっている胎児はむしろ酸素供給不足となり、苦しくなることが十分考えられます。降圧剤の中でもニフェジピンが最も強く胎児への影響が表れる事が、妊娠高血圧症に降圧剤を投与した最近の論文からも明らかになっています。文献1.この論文は、重症妊娠高血圧症(収縮期圧160mmHg以上あるいは拡張期圧110mmHg以上)妊婦に降圧剤(ニフェジピン、ラベタロールとメチルドパー)3剤を投与し、降圧効果と胎児への影響を見た論文です。降圧効果はニフェジピンが最も優れていましたが、新生児のNICU(新生児救急室)への入院率が他剤よりはるかに高率であったとしています。この成績を皆さんどのように判断されますか?私はニフェジピンが最も胎児を苦しめていると理解します。

胎児が苦しくなるとは、具体的にどのような変化が起こるのでしょうか?酸性血症となるのです。正常人の動脈血液は水素イオン濃度 (pH) 7.357.45の間に保たれているが,種々の原因で pH 7.35以下になっている状態をいます。ところが、胎児が酸性血症になると、胎児はその苦しさからバソプレッシンというホルモンを極端に増やすという事も明らかになっています。文献2

私の講座11をお読みください。https://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=38824559バソプレッシンは血管を収縮させ血液循環を悪くする(尿量を減らす) のみならず、子宮収縮作用もあるのです。このようなニフェジピンの作用を考えると、果たしてニフェジピンが

早産の治療効果があるのか?極めて疑問に思います。

私の患者さんで、その方は、一旦は地元銀行に就職されたのですが、一念発起会社をやめて、医師を目指して勉強され日本の医学部を目指すも叶わず、オーストリアの医学部へ入学もうじき卒業する人がいます。将来は日本で医師になる希望をもって頑張っています。先日その方がクリニックを受診されました。私が、その方にオーストリアの医学部では早産治療はどのように教えてもいますか?と聞きましたら、ニフェジピンですと答えられました。コクラン共同計画*に以下の記述があります:ニフェジピンは子宮収縮抑制薬として頻繁に用いられる。コクラン共同計画は硫酸マグネシウムやβ遮断薬(リトドリンなど)と同様に副作用が少ないと結論した。URL:https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD002255.pub2/full

その一方で、ニフェジピンは「妊婦(妊娠20週未満)または妊娠している可能性のある婦人」には禁忌とも書かれています。皆さんどちらを良しとされますか?

私の講座94などを是非お読みください。もっと安全な早産治療法があります。

http://p-lap.doorblog.jp/archives/50544220.html

*コクラン共同計画英語: Cochrane Collaboration; CC)とは、治療と予防に関する医療情報を定期的に吟味し、人々に伝えるために、世界展開している組織である[3]

文献

1.    Easterling T, Mundle S, BrackenH, et al. Oral antihypertensive regimens (nifedipine retard, labetalol, and methyldopa) for management of severe hypertension in pregnancy: an open-label, randomised controlled trial. Lancet 2019; published online Aug 1. http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(19)31282-6.

2.    Devane GW, Porter JC. An apparent stress-induced release of arginine

vasopressin by human neonate. J Clin Endocrinol 1980;51:1412-16