▽ ACOG(米国産科婦人科学会)の臨床委員会がこのほど、ピルは処方箋なしで服用できるようにすべきだと報告し、その論文をACOGの公式雑誌に掲載しました。(*1)。実はACOGは2012年にも経口避妊薬は薬局で販売し、処方箋なしでも買えるようにすべきとする声明を出しています。それを今回、どうしてダメ押ししたのでしょうか。公式雑誌が掲載している論文を意訳して概要を紹介します。


▽『ピルを処方箋なし、年齢制限なしで服用可能にすることを学会(ACOG)として見解を支持します。これにより、ピルの服用継続者が増加し、予期せぬ妊娠が減ることが期待されます。ピルによる血栓症のリスクは、妊娠時や分娩後の産褥期に比べるとはるかに低いのです。内診での子宮卵巣のチェックや頸がんの検査、性感染症といったスクリーニングは、ピルを服用し始める前に必要ありません。これらのスクリーニングが出来ていないからといって、ピルを内服できないことにはならないのです。ピルを処方箋なしでも服用すべきですという勧告の目的は、ホルモン療法による避妊の有用性の認識を高めることにあります。決して手軽さだけを追求しているのではないありません。現在、ピルを医師に処方してもらって服用することは、ピルによる避妊を普及させるステップです。ピルを処方箋なしでも服用することが、究極のピルによる避妊になるのです』。


▽もちろん、米国と日本では少し事情も違ってきます。ただ重要なのは、ピルを処方箋なしでも服用を勧めている、その根拠です。果たして副作用は大丈夫なのでしょうか?


▽まず安全性です。痛み止めなどに使う抗炎症剤のアスピリンやイブプロフェンは、処方箋なしでも広く使用されています。これらの薬剤には少量でも消化管出血などの副作用があることが知られている。風邪薬に使われるアセトアミノフェンも肝機能障害の副作用が起こる可能性があります。


▽さてピルですが、血栓症の副作用が心配されています。女性にはまれな疾患ですが、妊娠中や加齢に伴って可能性が高くなります。米国では、黄体ホルモンのみのピルも使われていますが、このタイプのピルでは血栓症はほとんど起こりません。


▽日本で使用されているピルは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの合剤です。卵胞ホルモンは肝臓から血液凝固を進めるタンパクを増やすため、少し凝固し易くなります。そのためピルの服用者では、1万人当たり3人-9人に血栓が起こるとされています。


ただ、この頻度は、妊娠時の血栓の発症頻度(1万人当たり5人-20人)や産褥期(分娩後12週間)の血栓の発症頻度(1万人当たり40人-65人)と比べると、格段に低いのです。


▽健康な閉経前の女性では、心血管疾患即ち脳卒中や心筋梗塞などの発症頻度は低いのですが、ピルが心血管疾患リスクを高めるかどうかはハッキリしていないのです。


▽肥満の女性は、ピルを服用すると血栓のリスクが高くなるとされていますが、それでも血栓の発症頻度は、妊娠時や産褥期と比べると低いのです。肥満は心血管疾患即ち脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高くなりますが、ピルの服用による血栓症の発症頻度では肥満女性と非肥満女性との差は明らかではありません。


▽つまり、肥満だからといってピルを服用すべきではない、とすることにはならないのです。


▽日本では、インターネット上でピルと血栓の関連性に関する警告がよく掲載されています。また外科医や内科医もピルと血栓の関連性を警告し、私たち産婦人科医は大変迷惑をこうむることが多々あります。残念なことに産婦人科医の中にもピルと血栓の関連性を過度に恐れ、その旨を患者に話す医師もいると聞きます。


▽ACOGの臨床委員会は「OTC避妊薬(街中の薬局で販売中の避妊薬)へのアクセスを年齢で制限する医学的根拠はない。避妊薬の販売に関する規制を見直す必要がある。さらにOTC避妊薬は健康保険でカバーすべきだ」と勧告しています。

▽「ACGOが2012年に声明を発表した後も、経口避妊薬は処方箋なく入手出来ない現状が続いている」と米NBCテレビは指摘しています。

 

*1.ACGO,et al. Obstetrics&GyneCology.2019; 134:e96-e105.