▽子宮頸がんの診断は、子宮頚管の擦過による細胞摂取で行い、その細胞の形態を見て診断します(細胞診)。細胞診の結果は、細胞の異常の程度を診断し、異状なし、軽度病変疑い(ASC-US)、軽度病変(LSIL),高度病変疑い(ASC-H)、高度病変(HSIL),がん(SCC)と報告されます。これは世界共通です。

現在の英国における子宮頸がん診断における問題点とそれによる過剰治療(不必要な追加検査・治療)が、患者の負担(治療後の生殖能の低下)や医療費の無駄につながるとの考えからおこなわれた英国の研究論文をご紹介します。

▽現在英国では、25才―49才の女性は、3年毎に、50-64才では5年毎に、子宮頸がん検査がおこなわれています。後述の細胞診が軽度病変疑い(ASC-US):ボダーライン以上で、さらにHPV陽性と診断されるとコルポ診*が行われています。また、その際細胞診が正常でも、HPV陽性の場合は毎年細胞診とHPV検査が行われ、2年後にHPV陽性であれば、必ずコルポ診が行われています。このいわば慣習的に行われているコルポ診を含めた検査が医療費の増大や患者への負担を増していると考えられるので、患者が不必要な検査・治療をうけるリスクを避けるための“トリアージ”を検討するためとしています。トリアージとは、患者の重症度に基づいて、検査・治療の優先度を決定して選別を行うことを意味します。

▽新型コロナではありませんが、子宮頸がんもある種のウイルス感染で起こることが明らかになり、細胞診でも子宮頸がんの原因となるウイルス感染の疑いが分かります。

▽その場合、細胞異常としては軽度なのですが、ASC-USと診断されて、日本では健康保険適応で子宮頸がんの原因となるウイルスの有無とウイルスの種類を調べます。ヒトパピローマウイルスHPV)検査といいます。

その結果は、危険度が最も高いのはHPV16型と18型。危険度は少し下がりますが、リスクがあるのは“その他”として診断されます。

▽日本でもHPV陽性と診断されると、一般的には子宮頚管の組織検査を行います。組織検査の結果は、その組織形態の異常の程度を診断し、正常、軽度異形成(CIN1),中程度異形成(CIN2),高度異形成(CIN3),上皮内がん(CIN3, 微小浸潤がん(Ia期)と表現されます。

▽英国のマンチェスターで2001-2003年に、組織検査でCIN3(高度異形成および上皮内がん)と診断され、その後10年経過観察した患者の予後を調べる研究が行われました。ARTISTIC試験といいます。

2015年、その結果をまとめた成績(CIN3が浸潤がんIa期になる頻度)が報告されています。要約します。文献**

HPV16型と18型の持続感染者は、細胞診が境界から軽度病変で19.4%で浸潤がんが発症しました。また細胞診が正常でも10.7%でがんが発症しました。

▽HPV検査が“その他”と診断された患者では、細胞診が境界から軽度病変でも7.3%でがんになっています。また細胞診が正常でも3.2%でがんが発症しました。

▽また379人の細胞診で軽度病変と診断され、新たにHPV陽性となった患者を10年経過観察すると、CIN3へ進展するリスクは、2.9%でした。

▽次に結論です。

大半のHPV感染は一過性、無害で、その70%は1年後には消出します。その後は、ゆっくりですが消出します。この研究から、HPV感染患者では、細胞診が軽度異常であれば、すぐコルポ診などを行うのではなく(過剰検査)、次回の検査を行なえばよいと提案しています。その間隔ですが、HPV16,18型で細胞診が軽度異常や正常では、1年後、その他では2年後の再検査が施行されています。

組織検査でCIN3と診断された患者がリスクが高いと判断されるのは、持続的なHPV検査陽性の場合で、16型と18型および“その他”の区別で、そのリスクの危険性の高さが推定できるとしています。

今後検討されるべき大切な点は、1.HPVが陽性で細胞診正常の患者が2度のトリアージ後(2年後の検査でも陽性、つまり持続感染の疑い)をどのように扱うのかを検討すべきとしています。 また2.このような患者で、HPV陽性で細胞診正常または軽度異常と診断された後に行われる通常の組織診またはコルポ診、どちらが病巣を絞り込んで癌を正確に診断するのに優れているかの検討も今後すべきであるとしています。

*コルポ診:子宮の出口のがんの出来やすい部分をレンズのついた虫めがねのような検査器械で検査するもの。

文献** Gilham C et al. BJOG Triaging women with human papillomavirus infection and normal cytology or low- grade dyskaryosis: evidence from 1-0-year follow up of the ARTISTIC trial cohort DOI:10.1111/1471-0528.15957